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鼓膜が痛い程ビリビリと声量のあるセレネの声がしたと同時に、俺を含め、ヨミとローグレンの足も何が起こったと思う前に足が動いた。
すぐそこにはもう通路の出口が見えていた。
最初にセレネがそこに飛び込むように出て、次に俺とヨミ、最後はローグレンが滑り出てくる。
出たのは、広い下水道の下の水路のようになっている場所、来た道を振り返りセレネが何を見たのか確認しようとすると、そこには…。
ゾゾゾゾゾゾゾッッッ___
次々に転がり轟いていく。今通ってきた仏像の頭の通路が塞がっていく。
後ろから、大量に積み重なっていた頭が波のように転がり落ち、後ろから迫っていた。
穏やかな表情だったものが、何かに憎しみを曝け出すような形相に変わり、その目は俺達の方を見ている。迫っていた頭の波は通路から雪崩れ、コロコロとこっちの足元にまではみ出す。
飛び出した時、一緒にここに飛び出したヨミが床に腰をつき俺の足元にへたりこんだが、靴の裏にコロコロと転がってきた赤い仏像の頭を追い払うように蹴った。
「クソッ…閉じ込められた。最悪」
「最悪なの通り越して…最っ高だね」
ヨミが立ちあがり愚痴垂れた声に言い返したセレネの手が腰周りに触れる。
あぁ……最悪を通り越して最高って意味が俺にも分かる。
なんて言ったって、通路から目を離して振り返ってみれば………周りの壁には、阿修羅像…って言うよりそうだな………あれだ、金剛力士像に近い。5メートルは確実にある。
壁に埋め込まれるように貫禄と威厳をさらけ出して立っていたただの石像だ。どっかの寺にもよくあるものだろう。そこから動かず、何処にもいかない。それが石像だ。
だが、目の前にある……いや、“いる“石像どもは…____そうじゃないらしい。
_「「伏せろっっっ!!」」
再びセレネの声量ある声が鼓膜を刺激した途端、俺とヨミはその場に伏せた。
その瞬間、頭スレスレの一歩手前で通過する、力士像の持っている剣。
グォンッッと思いっきり通過する風の音と共に、セレネは腰に下げた双手剣のうち、一つを抜刀した。
__『序曲 オーヴァチュア』
激しくも華麗な声の響きが空間に反響する。セレネから発せられている声なのか?気分が高揚しているのか、体に力がみなぎるのを感じる。
抜刀したセレネは、剣を振りかざしてきた像の腕に飛び乗り、腕を走って像の顔に刃をぶっ刺した。
明らかに鉄製か金製か、少なくとも剣でぶったぎれそうにない仏像にだ。仏像の顔は半分に切り落とされた。
「ローグ!!」
ぶったぎられて仏像がバランスを崩し、俺とヨミのいる方向へ倒れてくると同時に飛び上がったセレネが叫ぶ。
こっちへ落ちてくる仏像の体を見ていた俺の視界が突然黒くなって何かに体を掴まれた。
倒れた衝撃音と破壊音が暗闇の中で鳴り響いたと思えばすぐに視界が明るくなった。そんな俺とヨミの目の前にいたのは……見たことのない大きい動物。
薄い金色と濃い茶色の毛が混じった、口先が狐のようにしなやかで耳が長い狼のような姿。狼というよりは、骨格的に狼の化け物と言うべきなのか。それが俺達を屈強な腕で持ち上げて別の所に避難させた。
セレネの叫んだ声からして…こいつはまさか…。
「ローグレン、助かった」
「「うん!二人が無事で良かった」」
…喋った。声はローグレンの声だ。明らかにこの獣から聞こえたぞおい。どうなってる?もう、何がなんだか…!!
仏像はまだまだいる。巨体を動かし、俺達に迫ろうとするのをセレネが阻止していた。だが、今セレネが叩き切った仏像も頭がないにも関わらず今にも立ち上がろうと動き始めていた。
「要観二級…初っ端めんどくさいのに当たったね」
おい…この仏像もグェイの仕業かよ。二級ってそれ、ヤベェヤツなんじゃなかったか。
「クソヤバイ。分かるでしょ、さっきと違って何にも見えない。強力な殻を着て、弱点部分を見せないようにしてる」
これじゃいくら斬った所で、あいつらは死ぬことはない。あの違和感のある場所が見えないと何処を撮っても普通に撮影していることと同じこと。
後方に下がりながらヨミはこの仏像どもを睨み付けて言った。前で俺達を護るように遮るローグレン…らしき化け物は、近づく仏像に威嚇するように唸りをあげていた。
「ローグレン、ここは任せた。私らは近くを探ってくる。あの中じゃなくて、どっかに司令塔がナリを潜めてるかもしれない」
「「うん!!でも、なるべく急いでな!!ここじゃ狭すぎる!!」」
「ヤス来て!!」
ヨミに手を掴まれ、俺は無理矢理走らされる。ローグレンとセレネを大きい仏像がワラワラと群がる場に残して。
おいっ!!どうする気だ!?
「あぁいう風に複数の現象を同時に起こしているのは、だいたいどっかに司令塔としてグェイは別のとこにいるって教わった!!!」
あの中に一匹ずつはいないってことか!?
「あの通路の現象を見るからにしてそうっ!!!グェイ同士が密集して一つの場所にいることはないの!!」
明らかに俺達をここに閉じ込めて取り込もうとしている危険なグェイであること、それがここの何処かにいるのは間違いはない。
物を動かす、正しくは、物に思念があるということを錯覚させて動かしているため、物自体をいくら壊そうが元のグェイを断たなければ停止することはない。
ヨミは「だからヤスのカメラが頼み!!」と早口で俺とひたすら逃げ道を走った。
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