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こんなところに神社があるなんて事にはもう驚かない。それに鳥居らしきものもボロボロに崩れて、木造の柱くらいしか残っていない御堂くらいだ。
このままここにいてもどうにもならない。
通路の向こうから聞こえる重々しい足音とグラグラと建物がぐらつく程の振動が響き続ける。
逃げ道はないのか!?
神社の周りはただの壁だ。しかも地下だから穴を開けて外に脱出なんて事は不可能だし、廃屋の積み重なっている場所を掘り起こすにも時間が足らない。
こうしている間にも、通路の先からなにかを破壊して進んでくる大きな足音が大きくなっている。
「神に祈れ。…そういう事かね」
後ろから追ってくる気配に気づいていながら、ヨミは慌てる素振りも見せない。目の前にある神社を見据えて俺に指し示すように指を指した。
「ヤス、あんたって結構ツイてるのかもね」
この状況で何ふざけたこと言ってるんだよお前は。
いちいち、なんだか勘に障る女だ。さっさと出口か逃げられる場所を探すべきなのに、こんなときに何を指差して____
_____!
言っていた意味が分かった。
やみくもに探していて、けして見つかりはしないだろうと、何処かで諦めていた。
見えるはずのない不確かで、存在するはずのないものをどうやって見つけ出すのか。
目を瞑ったままじゃ何も見えず、暗闇の中で掴めやしない。
明確な姿を知らなければ、そこにあったとしても、見つけることは不可能だ。
_幸運って言うのかは分からない。でも今に限っては、幸運以外の何物でもない。
幸運とも言える救いの鍵_探していたその目には見えない存在___
神社の前に立てられた、釈迦が横向きに寝っ転がって説法を解いている涅槃のポーズがとられている仏像_今までのよりも形の乱れが激しい、グェイの印を見つけた。
後ろの音と気配が大きくなっていくごとに、俺の腕は一眼レフのカメラを顔の前へと移動させながら、その仏像の目の前まで近づく。
「ヤス」
一眼レフに写し出した仏像の“本来“の姿___俺は今まで以上に、その姿に衝撃を受けざるおえなかった。
固まった指先が、今か今かと俺の指令を待っている。だが、俺は接眼窓の向こうにいる、見えなかった真実の姿に、無意識に体も思考も固まる。…いや。
___なんだこれは___
「ヤス!!撮れっっ!!」
そんな俺を突き動かしたのは、ヨミの声と後ろからのけたたましい衝撃と破壊音、重々しくおぞましい気配。
__固まっていた指先がシャッターのボタンに落ちた。
眩しい光の点滅と、骨まで凍るような気味の悪い風が全身を駆け巡り、ギンッ!!と鈍痛が頭に走った。
思わず膝が地につき、カメラを手から落としかけた。
_「「ヨミッ!!ヤスッ!!」」
_「くっそが!!どんだけ斬り倒してもしつけぇな!!バカみたいに手足が湧いて来やがる!!」
_「「セレネ後ろっっ!!」」
セレネ達の声が聞こえる。俺の背後で、剣先の刃の音がしているのが聞こえる。…あいつら、追い付いたのか。
……いや、そんなことは、今さらどうだっていい。___どうでも良いと、諦めざるおえない。目の前のものを見てしまったら。
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