4 巣食う鬼

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「うぉぅ、絶対絶命。大丈夫?セレネ」 「いっっ…!!クソがっ!!笑ってんじゃねぇクソ女!!」 「ちょっと!!こっち来ないでよ!!てか剣!!剣落としてるってば!!」 「ぬぁぁ!?クソマジでバカしたっ!!ねぇっっ!!!私の何処行った!?」 「「セレネ!!あの像の足元に!!グォォンッ!!」」 ___なんなんだ__ ________この……_ 仏像が奇妙な動きを見せながら壁を破壊し、セレネ達の足止めを難ともせず追い詰めている。 今戦闘力となっている二人が、手足や頭を斬り倒しても這い上がってくる大きな仏像ゾンビに手を焼いて俺らは逃げ場がない。そんな絶対絶命的な状況で、頭痛が目眩が襲った俺の目の前には__とても救世主とは思えない。 ただの寂れた仏像だったのが、接眼窓の中で見た通りの白黒の物体に代わり涅槃像と同じ格好で、休日の居間で寝っ転がっているかの如く、悠々と寛いでいた。 ____なんだ。 ______この……… __「パンダァァァァァーーーー!!!!!!!!」 俺の思考がようやくそこに追いつく前に、仏像の数体に、ローグレンと囲まれたセレネの叫びが先を上回った。 俺の目の前で悠々と寛いで…いや、寝てるのかこれは?目の黒い模様のせいで目が開いているのか閉じているのか分からないが、一回見た時はなんか、そういう置き物かと思った。 ___そう。赤い布を首に巻いた涅槃ポーズで寝っ転がっている、妙に普通よりもサイズ感がでかい__パンダだ。 ……………… いや………なんか、納得がいかねぇ…………。 これ、生きてるパンダなんだよな?普通のパンダがこんな寝っ転がってテレビ見てるような人間臭い寛ぎ方するか?いや、しない。多分しない。 つかカメラ覗いた時に見えたのがパンダって。…クソッ頭痛いマジで痛い。パンダの件も含めて頭がどうにかなりそうだ。 ………ていうか、なんでいるんだよパンダ。 いや、そもそもこれ生きてるパンダなのか?なんでこんな絶妙な形で寛いでんだよ、教えてくれよ誰か。 「パンダァァァァァ!!散々探させやがってこんのメタボ!!んなとこで何寝てんだ!!手伝えぇぇぇぇっっ!!」 どっかで剣を落として無防備になったセレネがガゴガゴと首を機械的に鳴らす金剛力士の巨像の手の中に、獣の化け物と化したローグレンと一緒に掴まれながら、怒声をこのパンダに向かって浴びせた。 …おい。まさかとは思うが、あいつら二人が探してたのって…。 ____ 再び急に全身の骨を凍らされるような寒さに足元から襲われ、ペラッと足元に何かが落ちる。そこに落ちた、一眼レフから出る事はない真っ黒のままの現像写真。 俺が顔を下ろしたときの真っ正面にくる位置にそれは落ちている。 …ヨミが触れていた写真とはまるで何かが_違う。 金縛りなんかにあったのは初めてだ。全て、周りに見えるものがスローに動いて、巨像の屈強な腕と手の中に握られた棍棒が、俺達の真上に振りかぶる。 _ジワジワと黒いままの画像が写真の縁からはみ出ていく。沼のヘドロのようなドロドロの液体が俺の足を覆う。まるで俺を逃がしはしないと言っているかのように、足の内側から石のように固まっていく。 まるで生気を吸われ、身体中の細胞に侵食するように俺を蝕む。最初は足、取り払おうと動かそうとしても、ほどけるわけがない。 ___【ヤマイ】 ____【コロス】 _____【オマエ】 _____【ニンゲン】 ______【ホシ】 俺に何かが、話しかけている。 この真っ黒なドロの液体の底から_見えないドロの底から __【エバ】 ___【コロス】 ____【オナジ】 _____【ヤマイ】 ______【ニンゲン】 繰り返す単語が単調で機械的に、俺に訴えている。感じたことがない寒さを、全身で感じた。__そして、“痛み“も。 ____【『私ヲ』】 バチュンッッ!!!!___ _!!!! 耳をつんざくほどに勢いよく潰された。俺は後ろに倒れ、床に尻餅をつく。 俺の足元にあった真っ黒な写真。そしてドロドロの何か。それらは全て消え去った。 目の前に突然勢いよく割り込んできた、コンクリの地面も陥没する程の踏みつけ。__真っ暗な毛皮の足。 そして、スロー状態が解けた真上の棍棒が止まっている。 「…わぉ」 動かない。俺はそう思おうとしていたものだ。 ____「「…………………」」____ 奴は背後で寛いでいたはずだ。というより、ただの置き物であるはずだ。 俺は、人類は愚か、その時初めて味わった。 「「お、長ぁぁ!!」」 __写真を踏み潰したパンダが、巨像の鋼の棍棒を片手で受け止めたまま握り潰し、そのままへし折っていく__恐怖を。
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