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あのパンダはセレネの顔をなめたりぎゅっとハグしている事からなついているように見える。「やめろ!!」と言いながら顔や胴体を蹴ってセレネが逃げようとしても逃がさないように掴み直してでも離そうとしない。
普通に考えれば、パンダ好きには夢みたいな光景ではあるが、コンクリの壁や床が無惨な状態、バラバラ死体のように転がる巨像の残骸をこのパンダ一匹がほぼ作ったのだと考えると、あのじゃれあってる様子すらホラー映像に見える。
瓦礫とどっかりと空いた穴ぼこに注意しながら隠れていた場所からヨミと出る。パチッと俺のサンダルが踏んだものが鳴った瞬間だ。
じゃれていたパンダの顔がグァッと影をつけてこっちを向いたのは。
_「「……………………………」」
底知れない何かを感じる。出会ったことのない、絶対に触れてはいけない何かの領域に入り込んでいる気がする。ヨミの言った通り、ただ木の上で遊んでるか笹食ってるだけのパンダとは違う。
あまりの切り替えの早さに俺とヨミの足は思わず止まった。ヨミはささっと俺を盾にするかのように後ろに隠れやがった。
「長!」
俺の知っている姿のローグレンが俺達とパンダの間に割り込み、セレネを抱き上げたままこっちに近づこうとするパンダを止めた。
パンダはローグレンの姿を見ると、黙ったまま見下げてじっとローグレンを見つめた。
「あの二人は長を助けてくれたんだぞ!!ダメだ!!」
_「「…………………」」
「いーや!!この二人は普通の人間でも俺やセレネを助けてくれたんだぞ!森を荒らすような悪いやつじゃない!!」
_「「…………………」」
「わー…こんな近くでパンダ見るの初めて。なのに、全然嬉しくないのはなんで?」
知らねぇけど、そこは同意。
ヨミの言う通り、前に山道で熊に鉢合せた時より命の危機を感じる。
ローグレンの話を理解しているのか、首をかしげながら俺と手に持ったセレネを交互に見て、耳をパタパタ動かしている。
「なーに見てんだよクソパンダ。てめぇの不始末をそこの無愛想なカメラ男が片付けてやったんだろうが」
_「「………」」
パンダはセレネの言葉を聞いてゆっくりセレネを下に下ろすと、二足歩行で地から離れていた足を地に戻し、俺に顔を近づけてきた。
フンッフンッと鼻が鳴っている、臭いでも嗅いでいるのか、俺の手に持ったカメラから髪まで鼻が当たる。黒模様で隠された目がジロジロと俺を品定めしている。
「ふー、マジ焦った。すぐに長を見つけられて、良かったよ」
「とんだ酷い目に合った。探し物は見つけたんだから報酬、弾んで貰うかんね。腕の治療費とかは出さないよ」
「いらねーよ。こっちも修繕費は出さねーからよろしく」
ローグレン達が無惨な姿になった光景を見て話している最中、パンダは俺を見て首をかしげながら何度も臭いを嗅いでいる。
もう止せって意思を伝えるために半歩後ろに下がったが、パンダの顔も一緒についてきた事から、俺の体臭がかなり気になるようだ。
「さっさと退散した方がいいかも?あんなに暴れたんだから、町内会が気づいてやって来るのも時間の問題だし」
これ以上こんなところにいたらいつ崩れて落ちるのかも分からない。ヨミの提案にローグレンとセレネの二人は勿論異論なく頷くと、セレネが剣を鞘に収め、俺に興味を示すパンダの背中をベシッ!と叩いた。
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