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「えー?僕?いや、探すのは構わないけど…」
ルイ、手伝わなくていい。手伝わなくていいぞこんな事に。頭をひねるくらいなら断れ。
「頼むよぉ~!お前らくらいしか、頼めそうな奴いねぇんだよぉ!!」
おい、お前“ら“ってなんだ。俺は手伝わねぇぞ。
「そんなこと言うなって!!手伝ってくれよぉ~人形探すだけだぜぇ?どうせお前だって夜は暇だろ撮影出来ないんだからさーぁー?」
………ぶっちゃけ、暇って言えねぇんだけどな。まぁこいつ、俺が夜は家にいるって思い込んでるわけだからそう思うんだろうが。
「ね?コウちゃん、協力してくれるっしょ?ねっ?まだー夏休みなわけだし?」
「うーん…まぁいいんだけど、今日友達が泊まりに来るからどうかな…」
「は?ダチ?誰?女?」
「女の子だったら夏蓮に殺されちゃうでしょー?」
「………言ってもいいんだぜ?カレンちゃんに…女の子泊めたって」
「うわ、最低」
未成年のガキに卑怯な脅しを使うな四十郎。
お願いお願い~!!と俺よりもおっさんな野郎が駄々をこねる。見苦しいことこの上ない。
俺は嫌だ、絶対関わりたくない。基本的にこっちにその可能性はないと言われてるが、その人形がグェイ絡みなら尚更近づきたくない。こっちにいる間は勘弁してもらいたい。
_「何か、面白そうな話をしてますね。僕も混ぜてくださいよ」
…?
うざったいおっさんに絡まれて俺とルイが迷惑した顔でどうしたもんかと顔を合わせていると、団地の殺風景な廊下を歩いて来た奴に声をかけられた。
俺と同時にこっちに向かってくる奴に向いたルイが「あっ」と声を出して「やぁ!早かったね」と愛想のいい笑顔で出迎えると、そいつは片手に紙袋の手提げを持ち、片手でヒラヒラと黒い包帯の巻かれた手を振って返す。
「やぁ、おはようございます」
ルイと同じ歳位の普通の青年だ。
頭は特徴のない髪形だが色はルイよりも薄くピンクに近い赤毛、光の反射でそう見えるのか、瞳は緋色の目で、落ち着いた印象を受ける。口元は黄色のスカーフで隠しているが、仏頂面ではなくにこやかな笑みを浮かべているのが何となくわかる。
同級生か?格好は、なんか中国とは言い難く、砂漠にいそうな民族柄のチョッキにシャツって感じだが、ここの学校にはハーフも多いらしいから違和感はない。
「久しぶり~元気そうだね~」
「あはは、そっちも相変わらずですねぇ。今日は何の悪巧みです?」
「おいルイ、こいつが友達?」
俺達がいることも気にせずドアの前まで来て挨拶したそいつをユーハンが凝視すると、にこやかな笑みを浮かべるそいつを、ルイが紹介した。
「そうそう。彼はカインって言うんだ。前にバイトで知り合って以来友達」
「どうも、おはようございます。お邪魔でした?何やら、楽しそうな話をしていたみたいだったので」
「いんや、んなことねぇよ?俺はユーハンってんだ、不動産屋をしてる」
類は友を呼ぶ、と言うのか。(洒落ではなく)ルイと同様、人見知りもせず愛想のいい感じの青年だ、ユーハンと親しげに握手まで交わしている…が。
…どうも、違和感があるのはなんでだ?
どっからどう見ても、普通の青年ではある。
ヤンキーでもなければオタクでもない、本当に中間の平均的な奴だ。
背もルイよりも少し上くらいで中肉中背、どちらかと言えば着痩せするのか華奢にも見えなくもないが、こいつの目には違和感があった。
「それで、こっちがヤス。僕の隣人で写真家なんだ」
ユーハンに紹介した後、次に俺を紹介したルイの言葉に、カインという青年の緋色の視線がこっちに向く。
「写真家、ですか?」
「ジャーナリストみたいな感じだけどね。まだ修行中の身で、クーロンを題材にした作品を作ってるんだよ」
…よろしく。
とりあえず挨拶すると、そいつは俺に目線を向けたまま手を差し出した。
「はじめまして、僕の名前はカイン。………握手をしても?」
なかなか差し出さない手に、奴がそう聞いてきた。渋々、俺は手を出して握手をした。
「ヤス、日本人だからあまり握手ってしないんだよね」
「おや、日本人ですか?君達と顔が似てるから、区別難しいんですよねぇ」
「だよね。僕も最初に会った時、ラウシーから聞いてなかったら……_」
…………
全く、この妙な違和感はなんだ。こいつの目がまっったく笑っていないって事に関係してんのか?
今まで行ってきた旅行で、ヤバイ奴ってのは本能的に分かるってのが身に付いて来たとは思うが、目が笑っていないってだけでヤバイ奴とは限らない。
敬語のせいか、少し淡白そうにも見えなくはないが。
だが、何かが変なのは確かだ。本当にルイの友達か?
「へぇ。恐怖のにゃおにゃおちゃん人形?面白そうですね」
疑惑を抱いている間にいつのまにか話は進んでいた。突然現れたルイの友達とかいうカインって奴も、ユーハンの話に乗っかっているみたいだ。
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