3 閉鎖的な日常

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_夜も眠らない。 むしろ、夜の方が賑わう。 外の光も光景も一切が遮断されたクーロン。東洋の魔窟と呼ばれる閉鎖されたスラム街。 ユーハンとダミアンと共に、近くの飲み屋で引っ越しの祝杯を挙げた帰り。玄関市場の真上に引かれた連絡通路を歩く。 間近に見える住居の楝から、誰が弾いているのか弦楽器の中国を思わせる緩やかな音楽と市場の喧騒、そして所狭しと重ねられた漢字の看板が目に入る。 深夜のはずなのに時間という概念が全くないこの砦の中の世界観に、俺は既に呑まれていた。 __キィンッ_ タバコを吹かして帰る足を進める俺の足に何か小さなものが当たる。 _キィンッ___キィンッ__ 連絡通路に落ちていた透明なガラス玉。 俺が蹴った事でコロコロとコンクリートの上を転がる。そして、パラパラと落ちていた他の色のガラス玉へと当たる。 ネオンの看板の光が反射してキラッと瞬き、ビリヤードの玉のようにバラバラの方向へ転がっていく。 一部はポロッと錆び付いた鉄棒の隙間の間からこぼれ落ちていく。 赤、黄色、青、橙色___下の人波の中へ落ちて消えた。だが誰もそれを気にもしない。スルッとこの波の中へ溶け込むように静かに、落ちたからだ。 気づいていないだろう。あの淡い光の粒が、自分達の中へ落ちたことを。 誰も、気づきはしない。気づいても、誰も気にもしない。 囁かに上から落ちて、ただのガラス玉が地面の中へ消えることなど、誰も知らない。 残るのは破片。何の破片かも分からない、ガラス。 それが綺麗な球体であったことなど、誰も知ろうとはしない。 …人の人生っていうのも、所詮はそんなものだ。
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