白毛至上社会

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 頭に置いていた前足で黒助を地面に押し付け、顔を近づけた。 「まあ、私は優しいからな。今から捕りに行けば今日の失態はなかったことにしてあげようじゃないか」 「しかし、この鼠も前回の集会が終わってから毎日必死になって捕まえた貢物なんです。今から捕りに行ったとしてもとてもじゃないですが三匹も捕まえられません」  今にも泣き出しそうに弱々しく弁明する黒助を見て私はこれ見よがしにため息を漏らす。 「そうか、それは残念だ。このグループの中で一番の屈強な肉体と、汚れの目立たない黒い毛を持っている君にはみんなの役に立ってくれると期待していたのだがな。私の見込み違いだったわけか。――それならば仕方がない。次回からはもう来なくていいから、他のグループを探すことだな。まあ、君のような真っ黒な黒猫を仲間に入れてくれるグループがあるとは思えないがな」  いよいよ震え出した振動が足の裏に伝わってくる。 「申し訳ございません。分かりました。今すぐ捕まえに行ってまいります」  小さな声で黒助がそう言ったのを聞き私は今日一番の笑顔を作ってから、乗せていた足をどけた。  頭の上にあった足がどけられるとすぐに黒助は立ち上がり、鼠を求めて駆け出した。  その様子を見ていた周りの猫たちは彼が見えなくなると堪えていた笑いを一斉に吹き出した。  猫たちの声で包まれる公園の中心にいた私は苦笑を浮かべながらみなをたしなめる。 「まあ、そう笑うもんじゃないよ。彼は彼なりに必死なのだから」  言葉ではたしなめているのだが、笑が口からこぼれているのは自分でも分かった。 「さあ、今日の集会はこの辺でお開きといこうじゃないか」  そう続けた私の言葉を聞いて一度静まりかけた公園がまた猫の笑い声で包まれるのだった。 「ハクさん、この鼠たちはどうしますかい?」  黄虎が黒助が貢いだ六匹の鼠に視線を送りながら問いかける。 「皆まで言うな。そんな薄汚れた鼠などいらないのだから、いつもの様にその辺の茂みにでも放っておきなさい」  黄虎が一礼をして鼠に向かったのを見てから、私は踵を返し悠然と帰路につくのだった。
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