白毛至上社会

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 一刻一刻の繰り返しは一日を作り、一日一日の繰り返しは季節を作る。  そして季節が繰り返されると、歴史になっていくのだ。  私が生まれてから何度季節が巡っただろうか。  私の歴史は私の脳に、心に、体に刻まれている。  生まれてからの今に至るまで私は特別不自由もしてこなかったと思う。白き猫として生まれた私はその瞬間成功を約束されたようなものだからだ。  食べ物は食べきれないほど与えられ、対猫関係も頂点に君臨するものとして、みなを束ねていた。  そしてみなから尊敬され崇められることによって私は満足していたのだ。  悔いのない一生だったと思う。  ただ一つを除いて。  それは、体に刻まれた歴史があまりにも醜いことだった。別に大きな傷があるとかではない。常に体の事を気にかけていた私がそんなミスをする訳がない。  争いごとがあってもいつも頭を使って勝利を収めてきたくらいなのだから。  私の言う体の歴史とはつまり老いである。  若かりし頃の輝かしい毛並みは今では見る影もなくなっていることがどうしても許せないのだ。  美しくなければ生きている意味などなかった。  それなのにここまで生きながらえてしまったことが、私の一生の中で唯一の心残りで後悔だった。  しかし、それももうすぐ終わる。  なぜなら私の命の炎は間もなく消えるのだから。  死後の世界がどうなっているのか私には分からない。  ただ、私が生きた先の世界が美しくない訳がない。  だから恐怖などまったくなかったし、むしろ楽しみですらあった。  希望に胸を膨らませた私は最後にゆっくりと瞼を下ろすのだった。
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