白毛至上社会

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「黒助。なのか?」  どこまでも大きく広がる白と青だけの世界に突如現れた黒い異物は、鉱物のご飯の中に混じった一匹の虫のようで、ひどく不快な気持ちになった。 「はい。黒助にございます。ああ、ハク様。お懐かしゅうございます」  遠くを見るように黒助は目を細めた。 「久しいな。それにしても黒助。君はなぜここにいるのだい?」 「はい、(わたくし)はあの日にハク様の言いつけを守れず死んでしまいました。それが悲しくて、悔しくて、申し訳なくて。同じようにここに来た私はただただ泣きつくしていたのでございます。ずっとずっと。そしたら神というモノが現れまして。その神様は私にこう言ったのです」  黒助はここで一度背筋を正した。 「お主にはこれから天国に行ってもらいたいのじゃが、いつまでここで泣いているのじゃ。と。それで、私が事の顛末を説明したら神様があの時の仲間に会うまで道案内猫として置いて下さることになったのです。黄虎様を始め順番に案内をしてきたのですが、今日ハク様をご案内できれば私の務めもようやく終わらせることができます。ああ今日はなんと素晴らしい日なんでしょうか」  黒助は独りでずっと待っていたと言うのか。私が死ぬまでの間ずっとこの白と青しかない世界で。  それがどれだけ途方もないことなのか私には想像することもできなかった。 「そうか、それは大義だったな。それでその神とやらは今どこにいるのかい?」 「ハク様、神様は今あなたの後ろにおられますよ」  笑顔を向けた黒助の言葉を聞いて私は驚いて反射的に振り向いた。  するとそこにはさっきまで何もなかった空間に、白と黒の二つの扉と神と呼ばれたモノが立っていたのだった。 「黒助や、今までお勤めご苦労じゃったの。これで無事に天国へ行けるの」  優しい表情を浮かべるそれは白い服を纏い白い髭を蓄えていて確かに神々しく見え言葉を失った。 「神様、今までありがとうございました。これで思い残すこともございません。先に天国で待っているみんなに会うのが今はとても楽しみでございます」  黒助が神に近づくと尚更陰影がはっきりとしていた。
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