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海底の海亀
私は海の底。
長い間、動いていない。
甲羅で体を覆い、息を潜め、傷付かないよう
じっと身を守ってきた。
何年か何十年か。
私はふと思った。
生きているのだろうか。
私はちゃんと生きているのだろうか。
不安が広がっていく。
動かねば。
少しだけでも動かねば。
不安に押し潰される前に。
一度手足を動かしてみた。
海底の砂が舞う感覚がする。
数少ない刺激に、もう2、3度動かしてみる。
体が浮き上がった感覚。
今度は沈む事が怖くて、慌てて手足を激しくばたつかせる。
急激に体が浮き上がっていく。
手足を動かせば動かすほど浮き上がっていく。
私の周りの色が変わっていく。
海底の暗い紺色から
藍色。
鮮やかな青色。
空色。
明るさが増し視界が広がっていく。
四方八方に光を撒き散らす水面が頭上に迫ってくる。
必死に手足を動かす。
私は今、何処かに飛び出そうとしている。
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