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俺と花屋
「長い間、お待ち申し上げておりました!」
彼女は涙をめいっぱい大きな瞳に溜めて、大きな声でそう言うと勢いよく深々と頭を下げた。声は僅かだが震えていた。
なのに、彼女は笑顔だった。その笑顔のまま、堪えきれずしゃくりあげた拍子に、必死にせき止められていた涙が、こぼれ落ちる。その煌めきは大粒の真珠のようで、綺麗だった。
俺は、産まれたときから、ツイていなかった。
それは俺が過去の俺を振り返っても不憫と思えるほどに、俺はとにかくツイていなかった。
4月4日。AM4:44、この冗談みたいに不吉な数字が並ぶ時刻に、俺は生まれ落ちた。
元気な男の子、とはいかずに未熟児で生まれ落ちた俺は、産まれた瞬間からしばらくの間産声を上げず、生死をさまよったらしい。
誰もが「もう駄目か」と諦め掛けたときに、奇跡的に回復に向かって、今の俺がある。
今生 満、26歳。
容姿、普通。頭脳、普通。
中肉中背。
特技、なし。趣味、なし。彼女、なし。
運勢、最悪。
何事にも秀でないオールノーマルのこの俺が、人より唯一秀でているものがあるとすれば、この運の悪さに他ならない。これは悲観でも何でもなく、事実として自覚も確信もある。
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