プロローグ

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パン屋の上の階に自分の生活スペースがあるので、起きて身だしなみをととのえ朝食を摂る。準備を終えたら一階の店で仕込みをして、店内の掃除をして、焼いたパンを並べていくとふわりといい香りがする。 看板をOPENにしてからしばらくすれば日替わりで友人が手伝いに来てくれる。 今日は愛里だった。眼鏡と水玉のエプロンの似合う高校のとき同じクラスだった女の子で、俺の初恋と初失恋の相手でもある。 しかし今ではその彼氏…俊哉という好青年とは、顔を合わせて談笑できるほどの仲になってしまった。 これで俊哉が愛里に手を上げたり不幸にする奴だったら俺は迷わずその横っ面を殴って、愛里に一切近づけさせることなんてなかったし、自分の恋心を素直に打ち明けられただろう。 しかし、実際俊哉は高給取りの好青年で性格も申し分なかった。しかも俺よりイケメン。これについてはイケメン滅べとしか思えないけど。 愛里の笑顔も毎日翳りなく、……かわいい。 今日なんてランチタイムにちょこっと出す新商品のどうぶつパンに目を輝かやかせていた。 幸せそうな二人の仲を切り裂こうとは思わないし、何かあったら全力で応援するつもりだ。だからこの恋心は胸の内に秘めたままにしている。まあ初恋は叶わないと言うらしいし、穏やかに笑い合う時間が好きだからこれでもいいのかもしれない。 俺の他の友人達も一人だと大変だろうとレジや品出し、接客などを手伝ってくれる。 同級生の獅郎なんて腕に自信があるからと言って掃除や仕込みから、新商品の味見とアドバイスまで幅広く色々なことをしてくれる。たまにお節介が過ぎて何も出来なくなる気がしてくる。それほど頼もしくて、優しくて、どうしても甘えてしまう。 みんなに渡せる給料は決して多いとは言えない額だけど、日の終わりに余りのパンを渡すとみんな大事に抱えてありがとうと言ってくれるのでそれが俺の励みになっている。
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