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言葉の隅に苛立ちをチラつかせながら偉春が言う。そんな風にモテるくせに、偉春はそれをちっとも喜ばない。マネージャーと浮気をした水野くんならどれだけ上手いこと対応するだろう。ハーレムを作って、両手に抱く花を周りに見せつけていることだろう。 「あ~ぁ、偉春くん冷たぁい」 天空島出身で付き合いも長いうえ、サッカー部でマネージャーをしているさくらが、彼との距離を自慢するように、通りすがりに割って入った。凛の脳裏にマウンティングの文字が浮かび、しばし女同士の睨み合いが続く。 「そんな風に言ったら、二年生が可哀想だよぉ」 この妙にねっとりとした喋り方は、さくらが男子の前、特に人気のある男子を話す時の癖だ。 前後の席に並ぶ二人は確かに教室でもよく話をしているが、それはいつだってさくらからの一方通行だ。さくらがぶりっ子を発動させて偉春に向かうも、彼の態度は二年生に向けるものとさして変わらない。彼らの相関図は、偉春にばかり矢印が向いている。二年生にしたって、さくらにしたって、彼の眼中にないのだろう。 さくらの登場を助け舟に学習室に逃げ込んだ偉春は、凛たちがトイレから戻ると、すでに真剣な眼差しで教科書と向き合っていた。ドアの小窓から中を覗き込むと、他の生徒も同じで、話したり遊んだりしている人はいない。やはり進学組は格が違う、と凛は感心した。     
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