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凛が号令を鳴らす。合図に従って礼をするが、全員の視線は倉橋に集まったままだ。 「みんな興味深々だなぁ。いつもこれくらいでいてくれたらいいんだけど」 つい十分ほど前まで普通に半袖のシャツにベージュのストレートパンツという出で立ちだった倉橋は、胸元にエンブレムの入った半袖のカッターシャツに膝の破れた黒いスラックス、乾いた泥がついたスニーカーを履き、合皮でできた黒のカバンを肩から下げている。フレームがひしゃげたメガネをケースから取り出し、掛けて見せた。他にも教卓に置いた紙袋から旧型のゲーム機やガジェットなんかを取り出していく。 「これ、俺の高校の制服。この前実家に帰った時に持ってきたんだ。コスプレじゃないぞ? 皆に見せようと思って持ってきたんだ」 髪型も再現しているのか、いつも上げている前髪が無造作に額に散っている。 「汚れてるだろ。なんでこんなにボロボロだと思う?」 その場で一回転して見せると、教卓前の席に座る瀬乃に向かって聞く。瀬乃は遠慮がちに「……貧乏だったから?」と答えた。 「お前、失礼なやつだな。うち、それなりのお家柄よ? これは東京大震災の日に着てたの。昼休み終わって、五時間目の授業始まって少ししたくらいだったかな、地震あったの。だから制服」     
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