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『母さん、玄関開きそう?』 『ダメかも。こんな状態じゃ鍵屋さんも来れないだろうし、どうしよう……』 反応のない玄関のドアノブをガチャガチャと押し引きする。もちろんそんなことで開いてしまえば、その方が問題である。 『おかあさ~ん! こっち開いたよ~!』 遠くからこちらを呼ぶ少女の声がした。 「あ、これ妹の声だ」 倉橋が懐かしむように画面を見る。 映像の中では、カメラマンの倉橋少年と母親が声の方へ駆けだしていく。細い木が倒れたり、鉢植えが崩れて土が漏れて散乱している庭に入ると、大きな窓の前で制服姿の女の子がこちらに手招きしていた。小脇に茶色い豆柴を抱えている。センサーが効いたらしく、窓のひとつが半分ほど開いていて、隙間から中が見えた。 『何回やってもここまでしか開かないけど、とりあえず入れるよ』 『でかした、薫!』 倉橋少年が頭をぐしゃぐちゃにして撫でると、妹は本当に嫌そうに手を払いのける。この非常事態で、その仕草からはどこにでもある思春期の妹とうざったい兄の関係が見え、日常の地続きなのだと感じさせられた。 『いつ崩れるかわかんないから、あんたたちここにいなさい。お母さん中入って必要なもの持って来るから』     
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