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部屋の中は家具が倒れて物が散乱している。タブレットやテレビ、畳み途中の洗濯物、買い置きしていたらしいスナック菓子やパンなど、日常を感じさせるものばかりだ。ほんの数時間前までここに暮らしがあったということがよくわかる。倉橋は、落ちていた食パンを薫の方へ投げた。見事キャッチして、紙袋へ押し込む。 映像は、傘立てが倒れ、靴棚から落ちた花瓶と消臭剤が散乱した玄関に移動した。 『やべ、ここもぐちゃぐちゃだなぁ』 倉橋の手が伸びてきて、犬の首輪とリードを拾い上げる。散歩用らしい手提げも腕にかけた。 『スニーカーに履き替えた方がいいかもな。ローファー置いていこ』 そのままローファーを脱ぎ捨てたところまで映して映像は途切れた。おそらく履き替えるのに邪魔で切ったのだろう。 「お、ここで切れたな。いつか被災した時のために教えとくと、こういう時は絶対にスニーカーな! この後歩きっぱなしになることもあるし、とにかく動きやすい格好の方がいいから。俺はこの時とりあえず家族四人分のスニーカーを持って出たんだよ。親父と合流してからスニーカー渡したんだけど、そのことを今でも思い出しては話してる。そのくらいスニーカーが大事だったんだよな」
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