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ドローンでは手荷物はすべてここに置く決まりになっている。機体が揺れたときに、荷物が飛んで人に当たると困るからだろうが、凛はこの二年間一度もそんな経験をしたことがない。ゆったりのろのろ運転のドローンは、強風が吹けばすぐに遅延や運行停止を起こす脆弱な交通手段なのだ。その分危険もない。飛んでいないのだから当然だ。
「ご利用ありがとうございます。《天空島ゆき》午前八時の便離陸いたします。速やかに座席に着き、シートベルトをお締め下さい――」
頭上のベルト着用サインが赤く点灯しアナウンスが流れる。慌ててシートベルトを装着すると、ビーッというサイレンの後、機体は離陸態勢に入った。
頭上でブゥンと鈍い音が鳴り響き、しばらくして機体が垂直に浮上する。飛行機よりマシとはいえ、体にかかる圧力の不快感は好き嫌いに分かれるだろう。凛はいつも、むずむずと痛む腹を、窓の外の景色を見ながらやり過ごしていた。
機体が上空に落ち着くと、瀬乃と本田はペラペラと世間話を始める。
二人は新茅ヶ崎の駅の近くに住んでいて、小学校からの親友同士だ。小さい頃から天空島に憧れていて、二人で必死に勉強して天空島高校に入った、と朝を共にするようになった始めの頃に教えてくれた。
「なぁ、昨日寮で修羅場あったの、知ってる?」
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