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聞いた側から話したくてたまらなそうな本田に、「ううん、知らない」と答えてやる。機内を見渡すと、同じ制服を着ているのは、離れた席で船を漕いでいる男子と、自分たちの話に夢中になっている女子の二人組だけだ。特にこちらを気にしていないようなので、改めて本田の方を向き直す。
「なんかあったの?」
「サッカー部の次期部長とエースが、マネージャーを奪い合って殴り合いの喧嘩したんだって。やばくね?」
サッカー部とは無縁の三人にとって、これは完全に他人の修羅場。安心して話せる格好のネタだ。
「二年生ってこと?」
現部長はまだクラスメイトのはずだから、次期部長は二年生ということになる。しかし、二年生は美術部の後輩くらいしかわからないので、顔が浮かばない。
「そうそう。知らない? 三田燈って、栄とか偉春とかが可愛がってるやつ。あれが部長で、エースはユースかなんか入ってたっていう、鳴り物入りで入学したさ、派手なやつ。水野圭っての」
水野の方は、入学当初、後輩たちが部室で騒いでいたので、ぼんやりと盗み見た覚えがある。見るからに自信家で、堂々とした立ち振る舞いは、カリスマ性があった。ただ、同等にやり合えない相手からは嫌われそうなナマイキ感もある。
「なんか女の方が、三田と付き合ってるのに水野と浮気したらしいよぉ」
「同じ部内で良くやるよなぁ。クラスだって、寮だって同じなのに」
「バレないわけないよね」
一学年一クラス、たった二十人しかいないのだから、隠し事なんてしても無駄だ。
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