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惨月
あーかい つーきが みーてるぞ‥‥
おーにに かーげを とられるな‥‥
つーきが しーろく なったなら‥‥
いーま かーげ もどそ‥‥
‥‥
『彼女だ。間違いない』
まだ少し距離はあったが、ボクは直感的にそう確信した。
「大丈夫ですか? 近くまで‥‥行けそうですかな」
白髪交じりの警察官が、足を止めたボクの顔を心配そうに覗き込む。
誰だって、本物のスプラッタな光景なぞ見たいものではないだろうから。
『彼女』は警察署の裏手にある薄暗い倉庫の片隅で、ドス黒く汚れたブルーシートに包まれて無残な姿を晒していた。
「なんとか‥‥」
半ば仕方なしに震える足を前に出す。
喉がヒリつくような違和感を覚える。
「どうですか? その‥‥特徴とかは?」
努めて平静に、その警察官がボクに尋ねる。
シートから僅かに覗く亜麻色の長い髪の毛は、末端が少し縮れている。
顔はシートに覆われて見えないが、それは『見せられるものではない』からだろう。まぁ‥‥想像はつくというものだ。
「こちらが、衣服です。見覚えは?」
回収された衣服に眼をやる。
「‥‥ええ」
軽く返事をする。
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