惨月

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マスミは黙って下を向き、下唇を噛んでいた。多分、何か身に覚えがあったのだろう。 「『調伏』の時のマスミさんは、明らかに怯え過ぎていた‥‥『嘘が真になった』と思ったんじゃないかな? サトノを殺したという負い目から『自分が殺されるのでは』と。けど、そうした感情の高ぶりが、逆に惨月にエネルギーを与えたんだと思う‥‥」 暫しの間が空いた後に。 項垂れたまま、マスミは斎藤警部に尋ねた。 「‥‥何時からですか。 何時からサトノは自殺ではなく他殺だと疑って?」 「‥‥。」 斎藤警部は暫く黙っていたが、「最初からだ」と呟いた。 そして「言っても信じねぇだろうけど」と前置きしてから、こう続けた。 「ホトケさんの亡骸を回収した時にな‥‥突然オレの頭に『チェックのスカートから伸びる足を、両手で掴まれる』‥‥みたいなイメージが飛び込んで来てよ。‥‥どうにもそれが引っ掛かってて‥‥ ま、忘れてくれ。警察の言う事じゃぁない。さ‥‥もう、ホトケさんの供養は終わったんだろ?」 ジャリ‥‥と白砂を踏んで、一緒に来ていた若い警官が近寄ってくる。 そして、力なく座り込むマスミの両手に手錠を掛けた。 「‥‥現在、7時05分。好間マスミ、『廃川サトノ殺害容疑』で逮捕する。さ‥‥来るんだ」     
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