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マスミは背中を丸め、そのままボクの方を見る事もなくフラフラと白砂を踏んで、セダンの後部座席へと姿を消す。
その後ろ姿に、いつの間にかマスミの『影』は戻っていた。
ふと、ボクは『あの童歌』を思いかえす。
つーきが しーろく なったなら‥‥
いーま かーげ もどそ‥‥
それは、白い陽の光を浴びたせいなのか。それとも‥‥?
ボクは御堂に向かって頭を垂れ、そのまま暫し黙祷を捧げてから警察のクルマに乗った。ボクにも事情聴取があるらしい。
‥‥あの、最後に見えた『足をひっぱるイメージ』は。
ボクに、マスミが危険な存在である事を伝えようとするサトノからのメッセージなのだろう。きっと、きっと‥‥
そう。サトノは死して尚、ボクに寄り添っていたのだ。
‥‥それは、ボクが彼女に約束した事だったのに。
車窓の外に映る紅葉も、その終わりを告げようとしている。
やがて赤茶けた錆色の絨毯が、凍える山肌を優しく覆い尽くすだろう。
まるで次の春に再び生まれ変わる出会いを、約束するかのように‥‥
完
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