0人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が見つけたのは上下白のタキシードに薔薇の花束をもったいかにもな男。成田離婚なんて言葉があれば、その逆のことをする人間もいるらしく、どこか緊張した面持ちだ。こんな面白そうなものを見てしまっては邪魔しちゃ悪いと思いつつも、興味が背中を後押しする。俺は少なくとも次の飛行機の到着までは1時間あることを確認すると、緊張をほぐしてやろうという軽い気持ちで声をかけた。
「おにーさん。緊張してます?」
「え?あ、ああ。どうも、こんにちは。そうですね。少しだけ・・・」
「すみませんね。人待ちで手持ち無沙汰だったから声かけちゃいました」
「いえいえ。自分もこんな恰好なんでなかなか落ち着かなくて・・・」
そりゃタキシードに薔薇だしな。俺は自分の選択を呪えと心の中で訴えながらも、相手を持ち上げておいた。
「いやいや。似合ってますよ!男前!」
「ははは。止めてくださいよ。本当は似合ってないのは自分でもわかってますから・・・。彼女がプロポーズぐらいドラマチックな演出をしてくれって言ってきたんですよ」
なるほど。前言撤回。マジで同情する。
「彼女さんの便はどの奴です?」
「237便ですね」
「ほうほう。237便、237便と・・・」
俺はいつこの面白そうな余興が披露されるのかと電光掲示板を確認したが、どこにも237便の文字は無い。
「あれ?のってませんね?」
「はい。なんだか遅れているみたいで・・・。毎年なんですよね・・・」
「あー。そういうですか・・・」
見れるか見れないかは時の運らしい。少なくとも特等席には座っておこうと心に決めると、今度は男が俺に尋ねてきた。
最初のコメントを投稿しよう!