これはある大学生の朝である

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これはある大学生の朝である

アラームが鳴る。 時間は講義が始まる30分前。 ......今日はテストだと教授言ってたな。 彼はぼんやりと思いだす。 大学生にとってテストは単位を得るための戦い。 しかし。 ここにはもう1つ戦いがあった。 「なぁ、布団よ」 『なんだねブラザー?』 「いや、お前と兄弟になった覚えないんだけど」 『細かいことはいいじゃないか。で、何かね?』 「俺を2度寝にいざなうのやめてくれない?」 『......』 「おい、無視するな。心地よい温もりを提供するのもやめろ」 『それは聞けないな。私の存在価値が揺らいでしまう』 「存在価値だぁ?」 『布団として生を受けたのならば主の睡眠を重視するのが仕事。君は昨日深夜まで飲み会をしていた。今からテストに行っても無駄。ここで睡眠負債を返済したまえ』 「......テストは受けることに意味があるんだよ」 『......』 「あ!やめろ!顔まで布団をかけるな!寝かしつけようとするなぁ!」 『あきらめろ。君では私に勝てない。おとなしく自堕落な2度寝ライフを享受したまえ』 「まだだ!俺は絶対にあきらめない!」 『無駄な足掻きを。私に今まで勝てたためしがあったかね?講義の日もバイトの日もデートの日も。全て私の圧勝だった』 「今日行かないと落単なんだ......。行かせてくれ」 『......』 「行かせてくれたら、布団クリーニング出してやるから」 『......』 「毎日天日干しも付けよう!悪い話じゃない!だから!」 『......』 『断る』 「ああああああああ!」 負けるのは一瞬であった。 薄れゆく意識の中、彼は悟る。 自身の敗北を、落単を。 『よく眠れ。若者よ』 勝者は布団であった。 この戦いは明日も続く。
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