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幻影夢想 1/魔法使いの弟子
二〇一七年 九月一日 十四時
ここS県S市では、九月になったというのに連日猛暑が続いていた。
夏に行きたい県ランキング最下位のS県には海はなく、暑いことで有名だ。誇れるものは何もないという平穏くらいしかない。
そんな地味な地方都市の街には人知れず魔法使いが住んでいた。平穏な街は、魔法使いが隠れるにはうってつけなのだ。
しかし、現代の魔法は科学の劣化になりつつあり、S市のO駅から徒歩五分のところにある喫茶店『wonderland』の上階に居候する、魔法使いの弟子『太之儀優子』十九歳は夏の暑さにへばっていた。
優子は腰のあたりまで伸びる灰色に燻んだくせ毛を後ろで縛ってまとめていたがそれでも鬱陶しくてたまらない。黒ぶちの眼鏡の鼻あてに汗がついてムカつくし、時折、コンプレックスの紫色の眼が壁に立てかけてある鏡に映りこんで気持ち悪かった。
生まれも育ちもこのS県S市である優子だが、そんなことは関係ない。この暑さは人の生きる環境ではないのだ。人はそろそろ滅ぶな、とブラウン管と蝉と自動車のクラクションの合唱を聴きながら思う優子。
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