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自室の床に寝転がり、クーラーがないことを呪いながら、駅前の喧騒を憂う。最近魔法の勉強がてらに季節無視で育てている霞草が枯れないか心配だ。
窓の外には夏特有の積乱雲が青空に浮いている。雑居ビルの隙間から見る空は優子の好物であるが、それもこの暑さでは遊興にもならない。
現代の魔法は昔のようにチチンプイプイでなんでもできるわけではないため涼しくなれと念じてもその気配は一向に訪れない。優子にできる魔法は地味なものばかりで例をあげるなら鉄の板切れを作り出すことくらいだ。生活で役に立つ魔法など習得していなかった。
ふと耳をすますとブラウン管テレビから気になるニュースが聞こえてきた。なんでもS市で自殺が多発しているらしい。
平穏な街といえど、模範的でもあるこの地方都市ではそれなりに事件事故が起きる。特にこの時期はどこでも自殺が多くなる時期だろう。
ニュースを見て、人類の行く末を心配する優子は自室の扉を何者かがノック無しでこじ開けることを察知して身構えた。
──次の瞬間、まるで自室に入るようになんの気遣いもなく、金髪の少女が優子の部屋の扉を開けて入ってきた。
「優子、暇?」
笑顔で部屋に入ってきた少女は『太之儀有子』。優子の幼馴染で、訳あって太乃儀家の当主である。
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