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「待ちに待った解禁日ね」
彼女は嬉しそうに私に微笑む。知り合って一週間に満たないが、彼女はすっかり私に心を許している。女性の心を意のままにする能力は私のような職業にとって必須と言える。それなりの修養は積んできたつもりだ。
グラスに注がれた真紅が揺らめく。
「エレガントで酸味と果実味のバランスがとれた上品な味わい…………。だそうよ、今年の評価は」
「毎年べた褒めだよな」
私は苦笑を禁じ得ない。扱う食材のジャンルは違うものの同様の仕事をしてるだけに、無理やり誉める苦労はよくわかる。
グラスを重ねようとする彼女を制して、私は彼女の瞳を見つめた。
「ワインよりも先にテイスティングしたいものがある」
彼女をやや強引に抱き寄せる。
彼女は呆れたように、しかし嬉しそうに私に身を任せた。
長いくちづけのあと、私は唇を彼女の首筋に這わせる。一瞬、彼女はびくんと身体を痙攣させすぐに大人しくなった。
意識を失った彼女を優しくベッドまで運ぶ。
紅く芳醇な香りを口内で転がし、余韻を味わう。
私はデスクに向かい、解禁日を待ちわびるバンパイアたちへのレビューを書き始めた。
ーー今年は鉄分のエグみが抑えられたまろやかな味わい。過去十年で最高と言われた昨年を上回る出来映えーー
《終わり》
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