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そしてひと月後。
「遅い、いつになったら勇者は来るんだ!」
魔王は苛々と玉座の間を歩き回っていた。
「くっそ、さっさと奴が来てくれないと俺はあんな女と結婚しなければならなくなるぞ」
「自分で誘拐しておいてなに勝手なことをおっしゃるのです」
「黙れぺちゃぱい」
あんな女扱いされた姫は呆れ顔で鼻からへっと息を吐き、魔王は端正な顔を物凄い形相に歪ませる。
そう、誘拐したのはいいものの、姫はまったくと言っていいほど魔王の好みではなかったのだ。
魔王はセクシーな体付きをした髪の長いおしとやかな女性が好きだったから、自分の理想とぴったり一致する姫を誘拐したのだ。
姫はスタイル抜群で美しい長髪を持つ清楚な女性だと聞いていたのに、本当はショートカットだったのを付け毛で誤魔化していた上に胸には詰め物をしていたし、実際に会話をしてみたら好みとは真逆のタイプだった。
がっかり感を溜息に乗せて魔王はぼやく。
「はーあ、まさか胸を盛っていたなんて思わなかった」
「違いますー非常食にあんぱん入れてただけですー」
ふてくされる姫の態度に魔王はますますむかっ腹が立つ。
彼女の性格には偽物おっぱいに以上にがっかりさせられた。そもそもなんで胸元に非常食なんて仕込んでおくのだ。デブなのか。
玉座にどかりと腰を下ろし、ひじ掛けにだらしなく頬杖をつきながら魔王は呟いた。
「あーあ、早く勇者やってこないかな」
「そんなに私を厄介払いしたいんですね」
「さらってきてしまった手前、こちらから送り返すわけにもいかないからね」
姫を誘拐してしまったので、人々は大パニック状態に陥ってしまった。それはそれで大いに結構なことなのだが、ここで簡単に彼女を返してしまっては人間達に舐められそうだし、魔王の沽券に関わってくる。
それにしても、この姫を助けにやってくる勇者は一体どんな人なのだろうか。
魔王の好みではないが姫は確かに美しい。彼女の婚約者となれば当然ハイスペックの男が出てくることだろう。
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