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気になると言えば気になるので、とりあえず部下を呼んで様子を探ってみることにした。
「おい、勇者は今どこでなにをしているんだ?」
ちょうど偵察から帰ってきたオークが頭を下げながら勇者について報告した。
「へいボス。それがですね、奴はまだ最初の町周辺をうろついているようですぜ」
「はあ、なんでだよ?」
「どうやら道に迷っているらしく、ここまで来るのにまだまだかかるかと」
「あんなところで迷う馬鹿がどこにいるんだ! 地図渡して来い!」
魔王の命令でオークは大慌てで勇者に地図を渡しに行った。
数日後、方向音痴のせいで右往左往していた勇者は敵であるはずのオークに渡されたわかりやすい地図とコンパスのおかげでどうにか先へ進むことができた。
いきなり助けられて彼は怪訝顔をしていたそうだが、オークはだらしない勇者を挑発しに来たという体でうまく誤魔化したらしい。
地図には迷いやすい道の注意点や困った時のアドバイスが丁寧に添えられており、この気遣いによって勇者の旅は大きく前進した。
それでも彼はなかなか魔王城までやってこない。
ある時は洞窟で重傷を負い、ある時はハニートラップに引っかかり、またある時は四天王に襲われたりと色々なイベントが起こり、勇者の冒険は前途多難だった。
そして勇者が足止めを喰らえば喰らう程、魔王は苛々と頭をかきむしる羽目になるのだった。
「ああもう! どれだけ俺を待たせれば気が済むんだ。しかもなんでハニトラなんかに引っかかってるんだよ馬鹿!」
オークからの報告を受ける度に魔王のストレスは上昇した。
どれもこれも魔王が部下に命じて事前に仕掛けさせたものなのだが、まさかそれをここまで後悔することになるだなんて思いもしなかった。
「そこまで来てほしいならそんなに罠を仕掛けなきゃよかったのに」
「うるさい、そんな正論聞きたくないぞ!」
退屈をこじらせてピアノレッスンにいそしんでいる姫に魔王は怒鳴りつける。
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