星空の想い出

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ご来館ありがとうございました 本日の上映は全て終了いたしました 皆様気を付けてお帰りくださいー 丁寧だが、いかにも業務的なアナウンスが流れる ガタガタとお客が帰り支度を始める このような場所だ、友人や恋人と一緒に来ている人が多いのだろう 感想を言い合ったり、これからの予定を話したりしている中、愛実は黙って席を立った 話をする相手など居ない 以前はよくこのプラネタリウムに父さんと来ていたのも今では嘘みたいだ 『面白かったな』 『キレイだったね、また来たいな』 『う~ん、』 上演予定を確認して、 『来月までやっているから、また来よう』 『やったー!』 ・・・ 大きな溜息がもれた 実際には交わされない架空の会話 願望だけの会話は、私の頭の中だけ ・・・いったい、何時からなんだろう? 望んでいるのに、決して交わされない家族の会話を妄想する癖 妄想が終わったら虚しいだけなのに 私、倉沢愛実≪くらさわめぐみ≫は14歳の中学3年生 所謂受験生だ この夏休みも、同級生達は家や塾で勉強しているだろう 足を向けるべきは図書館やらで、こんな所に来ている場合ではない まして、一応私が目指しているのは県でも有数の進学校 なのに、ここ最近は勉強に身が入らない 勉強よりも、自身の生活を左右する状況が起きているから 「私は、倉沢のままなのかな?それとも」 館を出ると、まだ明るさが残っていた 時計を見ると18時前 まだ帰りたくない 帰っても、母さんの愚痴を聞かされるだけだ よく娘の前でその父親の悪口を並べ立てられるものだ、と苛立つばかり 私は館の敷地内にあるカフェで、更に時間を潰す事にした カフェに入るとちょうど良い冷房と、落ち着いたBGMが客を迎えてくれる 「お好きな席にどうぞ」 ウェイトレスの女性が笑顔で、禁煙席側の座席方向を示す 私が窓側の席に座ると直ぐに別のウェイトレスがお水を持っていてくれた 「ご注文が決まりましたらお呼びください」 「はい」 メニューを開き目を通す振りはするが、もう注文は決まっている 「すみません、温かい紅茶をミルクで」 片手を上げてこう伝えると、ウェイトレスが承知の会釈で答えてくれた 夏でもホットミルクティー 私の好物 メニュー表を元に戻して、ミルクティーが来るまで外を眺める 窓から見えるのはやはり、家族連れや、友達だろう数人で談笑しながら歩く、平和な光景 ・・・何時からだった?・・・ 家族だけじゃなく、友達ともうまくいかなくなったのは? 両親の不仲を心配してくれるクラスメートもいたのに、いつの間にか離れてしまった きっと、私が嫌な態度をとってしまったのだろう 余裕のなさが私を『イヤな子』にしてしまった そう考えるしかなかった 「私には、もうああやって楽しくお喋りしながら歩くなんて出来ないのかな?」 もう、誰かと仲良く肩を並べる自分が想像出来なくなってきている 「お待たせしました」 と、ウェイトレスがミルクティーを運んできてくれた 「ありがとうございます」 「ごゆっくりどうぞ」 当たり障りのない笑顔 私もこういう笑顔が出来たなら・・・ 『おはよう、ねぇ今日は何処行く?』 『美味しいクレープ作ってくれるお店知ってるよ』 『あ、じゃあ皆で行こうか?』 『私も一緒に行って良い?』 『勿論よ、愛実』 ・・・また・・・ 今度は居ない友達との会話を妄想していた 溜息がもれ、憂鬱な気持ちを振り払うようにミルクティーのカップに手をのばした 持ち上げると、ゆうら、と淡い湯気がなびく 甘い香りが鼻腔をくすぐり、少しばかり落ち着けた気がする 家族の事も、居ない友達の事も頭から追い出しミルクティーに集中する事にした 先ずは一口、 舌の上に乗る程度の量を口に含むと、甘いだけじゃない程よい苦味に似た味が広がる ゆっくりと喉に通す時も、私好みの味わいを保ってくれている イヤな事を忘れさせてくれる もう一口、そう思った時、 「へぇ、この真夏に熱いミルクティーか?」 そんな不躾な声がしたのは、私の真後ろ 「え?」 「ここ、そんなに冷房強くないし、なでわざわざ温かい飲みもの飲んでるんだ?」 振り替えると、何時から居たのか?同じ年くらいの男の子が立っていた それも、私の座る椅子スレスレまで近づいて 「誰なの?」 思わず睨んでしまった 彼はそんな私に(当然だけど)怯む様子もなく、あろうことか、私の隣の空いている椅子に腰を下ろして、手を上げウェイトレスを 呼んだ 「すみません、俺もホットミルクティーお願いします」 「え?」 なに? さっき私に、真夏に熱い飲み物を飲んでるのは変だ、みたいな事言っていたくせに自分も頼むの? そもそも、 「何でここに座るのよ?」 席は他にも空いているのに! 「え?だってこの席はいつも俺が座っている席なんだから」
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