1人が本棚に入れています
本棚に追加
不思議な少年
え?
「今日は私が座っているのだから別の席に座ろうとは思わないの?」
「思わない」
ここは俺の場所だから、と譲らない
「分かったわよ」
だったら私が移動する
私はこの席に執着はないのだから問題ない
ミルクティーのカップとレシートを持って別の席に移動しようとする、と
「別に良いだろう?元々ここは2人用なんだから」
と、腕を掴まれ止められた
「それに、そろそろ混む時間だぞ」
「え?」
言われて店内を見回すと、確かに私が入店した時より混み始めていた
「仕事帰りの時間だ、俺達みたいに夏休みなんてないからな」
大人が仕事を終えて、帰宅前にカフェで寛ごうとする人が入ってくる
「・・・・・・」
私は諦めて、この席に残ることを決めた
少し勿体無いが、ミルクティーを味わうのをやめて早く飲んでしまおう
そしてさっさ、と出てしまおう
まだゆるりと湯気のたつカップに口をつけると、やっぱり熱い
けど飲み終わらないと帰れないなら、とグイ、とカップを傾ける
「熱っ!」
「おいおい、そんなに慌てて飲むことないだろう」
笑うのを我慢しているのが分かる
「そんなに俺と一緒の席にいるのが嫌か?」
「別に」
少しこぼしてしまったため、ハンカチで口の周りを拭きながら私は彼を睨んだ
「あ、もしかして彼氏に見つかるとマズイとか?」
ああ、だったら急いで離れようとするわな?と納得している
「勝手な想像で決めつけないでよ」
彼氏なんているはず無い
友達すら、いないのに
・・・私は、独り・・・
「良いわよ、誰に見られたって」
「あ、そう?」
そうこうしている間に彼の分のミルクティーが運ばれてきた
「ごゆっくりどうぞ」
と私の時と同じように柔らかい微笑みでミルクティーと脇にレシートを置いていく
「さて、いだだきます」
と手を合わせてからカップを持った
2~3回冷ますように息を吹きカップに口をつける
「熱っ」
と言いながらも、くっきりと出た喉仏が上下する
「ウマイな」
「そうね、ここのミルクティーは好きよ」
「甘すぎなくて飲みやすいよな」
そう言ってまた一口
私はそんな彼を見ながら、少し驚いていた
・・・私、会話した?・・・
会ったばかりの、こんな図々しい男の子に
いつもの私なら、彼が何を喋っていても無視をして、さっさとミルクティーを飲んで何も言わずに立ち去るだけなのに
「あんた、ここに良く来るんだ?」
「え?なんで」
「だってさっき、ここのミルクティーは好きって言っただろう?」
「・・・・・・」
「だから常連なのかな?って思った」
ニカッと笑う
でも、全然不快に感じない
・・・なんで?
その答えは出ない
強いて言うなら、彼が少しお父さんに似ている気がしたから
笑い方なんてそっくり・・・な気がする
「・・・プラネタリウムを見に来ているのよ、悪い?」
だからって気を許した訳じゃないけど、これくらいなら答えても良いかな?
「へぇ、プラネタリウムか」
「ええ、今日は新しい映像だから見に来ただけよ」
「星が好きなのか?」
「・・・普通よ」
私もミルクティーを喉に流す
少し冷めていた
「星は良いよな、今度俺もプラネタリウム行こうかな」
「オススメよ」
と、底に残ったミルクティーを飲み干す
「美味しいミルクティーを見つけるあんたのオススメなら見る価値ありそうだな」
またニカッとお父さんに似た笑顔を見せる
ドキッとした
「え、ええ、・・・それじゃ私飲み終わったから」
と今度こそレシートを手に席を立った
「俺、諸星逸平っていうんだ」
立ち上がった私にいきなりの自己紹介
「私は、」
少し迷う
けど、もう会うこともないだろうと私も答えた
「私は倉沢愛実よ」
「オーケー、じゃあまた会ったらヨロシクな」
「・・・・・・・」
私はわざと曖昧な笑みを返してレジに向かった
また会ったら、なんて事あるわけ無いじゃない、といつもの自分に戻って冷めた振りをした
最初のコメントを投稿しよう!