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「……製品化されたんですか」
ロングタイプのカクテルグラスを拭く手を休めずに、バーテンダーは静かに問いかけてきた。
当時の俺に訪れた、アレやコレやに想い馳せ――気付けば5分近く沈黙してしまっていた。
「いいや」
自虐的な笑みが溢れる。
「あの薬が世に出ていたら、今夜ここにはいないよ」
やや薄まった液体でゴクリと喉を潤す。鼻から抜ける、燻したような深い香り。俺は、窓外の鈍い煌めきに目を細めた。
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