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「ネスタン様はお詫びにと、大変貴重な若返りの薬をくださいました。これを飲んで人生をやり直してほしいと」
「その薬を飲まなかったのですか?」
「はい」
確かに、イコが若返ったようには見えなかった。しかし、噂でしか聞いたことがない若返りの薬が実在していたことに私は驚かされた。材料のほとんどは滅多に見かけない、あるいは本当に存在しているのかもわからない動物や植物であり、作り方を知っているのも一握りの魔術師だけと言われているような代物なのだ。
「薬は一人分しかないということでしたし、私だけ若返るよりも、残りの人生をネスタン様と共に過ごしたいと思いましたので。それを申し出ると、ネスタン様は大変お喜びになり、許してくださいました」
私は体の異変をはっきりと自覚していた。これは嫉妬からくる反応ではない。体の内側から膨張するような感覚、血液が煮えたぎるような感覚が段々と強くなっている。しかし、それらは痛みや苦しみを伴うわけではなく、どちらかといえば力が湧いてくると表現する方が適切に思えた。
「そういうわけで、私はここを出て、ネスタン様のお側に置いていただくことになりました。そのことをスリンガさんにもお伝えしておきたかったのです」
どうやら、私の五十年以上に及ぶ片想いは、今度こそ完全に片がついたようだった。しかし、正直それどころではなかった。私の体に何が起こったというのだろうか。
「薬が効いてきたようですね」
イコの言葉に耳を疑った。彼女が私に飲ませたのは予防薬ではなかったとでもいうのか。
「ご自分の手をご覧になってください」
言われるがまま両手を見て、絶句した。そこにはしなびた手ではなく、張りと艶のある若々しい手が並んでいたのだ。驚いて頬を触ってみるとそちらもすべすべしていて、自分の体ではないように思われた。
「若返りの薬を飲むと、肉体が最も充実していた頃、おおよそ二十歳くらいに戻るそうです」
「では、私がさっき飲んだのは……」
その先は聞くまでもなかった。私の体はみるみる内に若さを取り戻し、やがて完全に二十歳頃の肉体へと変貌を遂げた。着ていた服が窮屈に思えたほどだ。
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