コンテニュー

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 若返りというものを体験すれば、ほとんどの人間は喜ぶのだろう。しかし、私はそうではなかった。 「どうして、私に飲ませたのです……」  悔しくて涙がこぼれた。 「スリンガさんのお気持ちには気づいていました。でも、私はそれに応えることができません。これまでも、これからも……。私があなたの人生を台無しにしてしまいました。ですから、あなたには人生をやり直していただきたいのです」  イコは穏やかな表情のまま答えた。 「台無しなんかではありませんし、あなたを愛したことを悔やんでなどいません。それに……それに、イコさんのいない人生など、やり直して何になるというのです」 「……別の女性を愛して、新しい人生を歩んでください。それを私へのはなむけとしてくださいませんか」  とめどなく涙が溢れ、私は嗚咽を漏らした。  イコは長年想い続けた人と結ばれた。  私は新たな肉体を与えられ、代わりに魂の拠り所を失った。  イコにとってのネスタン様がそうであったように、私にとってはイコがすべてだったのだ。  もはや生きる理由など無いに等しいのに、イコは私に新たな人生を歩めと言う。別の女を好きになれと言う。  イコのいない人生をまっとうすることができるだろうか。  そして、その先に何があるというのだろうか。  イコは私が落ち着くまで待ってくれた。その短い時間は私たちが見送った数十年よりもずっと濃密で、感傷的だった。  私は鞄からネックレスを取り出し、イコに差し出した。 「これは子供の頃、あなたに差し上げようと思っていたものです。丁度ネスタン様がおいでになって、渡せずじまいになっていました。子供の小遣いで買った安物ですが、どうかもらっていただけませんか」 「まあ、嬉しい。一生大切にします。よかったらかけてくださいませんか」  私はイコの側に寄り、ネックレスをかけてやった。こらえきれず、そのまま彼女を抱きしめた。 「すみません。少しだけこのままでいさせてください」  イコは抵抗せず、私の背中に手を回した。幾星霜を経た想いが再び涙となって頬を伝った。
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