コンテニュー

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 *  五十年の歳月は、思っていたよりもずっと早く流れ去った。  私の皮膚は皺だらけになり、腰も折れ曲がってしまった。早い話が年老いたのだ。  もちろん、それはイコも同じことだった。彼女は皇太子殿下(そのときはすでに皇帝に即位された後、退位されていた)からお呼びがかかるのを待ち続け、貞節を守ったまま老婆となってしまったのだった。  私もイコを想い続け、結婚することなく老いてしまった。その間に両親と死別し、薬屋の跡を継ぎ、体力の衰えから店を畳んでいた。商売をやめてからは、故郷の町で学校の教師をしたりしながら、ゆったりと余生を送っていた。  買い付けに出る必要がなくなったことで、イコとは数年顔を合わせていなかった。ただ、最後に宿を訪ねたとき、主として宿を切り盛りしているイコの甥に、何かあったら手紙で知らせてほしいと頼んであった。私もそうだが、いつお迎えが来てもおかしくない歳だったのだ。
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