意地悪して、ごめんな

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 相手を信頼するとは、どんなことだろうか。直哉はふと、そんなことを思う時がある。  和也とは恋人同士で、情を交わしたのは数知れず。相手に可愛いとか、愛情だとかは感じているのだが、それは信頼とは違う感情なのではないかと感じるようになってきた。  それは例えば、守りたいだとか。それは果たして、相手を信じているといえるのだろうか。むしろ……。  直哉が会社から帰ると、トントンと小気味のいい包丁の音が聞こえてきた。一度顔を見せるために、直哉は台所へ出向く。 「和也、ただいま」 「あぁ、おかえりなさい」  どうやらネギを刻んでいたらしい。和也の奥のコンロでは、フライパンで麻婆豆腐が蒸気を出している。 「それ、広東?」 「はい。さすがに四川は辛いので」 「和也、辛いの苦手だもんな」  ネクタイをほどきながら、直哉が言った。和也はネギを切り終えると、まな板を傾けてすべてフライパンの中に入れる。ターナーで軽くかき混ぜると、器の準備に入った。 「どうします。丼ですか?」 「その方が好きだわ」 「じゃあ、そうしますね」  和也はそう言うと、丼を二つ取り出した。そこに白飯をよそう合間に、直哉は寝室に行って鞄とスーツを置いてくる。ワイシャツは洗濯機に放り投げると、手を洗ってダイニングに戻って来た。するとすでに、丼が二つ並べられている。 「うわ、うまそう」 「レトルト使いましたけどね」 「レトルト、いいじゃん。旨いし、簡単だし」  自宅で本格的のものを作ろうとすれば、今後絶対に使わない調味料を買わなくちゃいけないことになる。それならレトルトで手軽に食べられた方が良いというのが、直哉の考えだった。  直哉は席に着いたが、和也はまだ台所で忙しなくやっている。どうやらスープの準備をしているらしかった。キューブ上の、中華スープ。それを見て、直哉はある話を思い出した。 「同僚がさ、寝ぼけて風呂入ろうとしたらしいの。で、入浴剤があんなーって、珍しく風呂に入れてみたらしいんだわ」 「まさか、これ入れたんですか?」 「写真まで取ってみせられたから、多分ほんとだと思うけどな」  馬鹿だよな。そう言って二人は笑った。
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