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和也がパソコンのワードに台本を打ち込んでいると、電子音が聞こえてきた。見ればスマホが光っている。着信を知らせる画面には、担当の金田優子の名前が表示されていた。
そういえば、書くか書かないかの返事を保留していたことを思い出す。人差し指でスライドさせると、もしもしという女性の声が聞こえてきた。
「お疲れ様です、金田ですぅ」
「どうも、お疲れ様です」
スマホの向こうには、雑多な人の声や電話が鳴る音が聞こえる。金田は出版社にいるのだろうかという推測を建てる。
「早速なんですが、先生、例の書けそうですか?」
キーボードのカチャカチャという音をさせながら、金田は聞いた。もしかしたら優先すべき案件があるのかもしれないと思い、忙しい時期に申し訳ないなという気持ちになる。
「はい、目処は立ったので、大丈夫そうです」
「あぁ、なら良かったです」
簡潔に言ったその言葉には、わずかに安堵の色合いが見える。これで和也がノーと言えば、他の作家を探さねばならない。
「それでなんですけどぉ、シリーズの番外編みたくする感じですか?」
「それだとあんまりSM感出ないかなと思ってるんですけど」
「ちなみに、先生の考えるSMって、どんなですか?」
それは和也も、考えていたことだった。ただ目隠しや手を縛っただけでは、面白くないかもしれない。ではどうすればいいのか、ちょっと見当がつかない状態だった。
「一応ネットとかで調べてはいるんですけど……」
「あんまりいいのが見つかりませんか?」
「というか、出てくるの全部痛そうで」
直哉はことあるごとに、痛いのは嫌だと言っていた。直也の嫌がることは和也にできるわけがないし、第一和也の趣味ではなかった。
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