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「で、今回はどんな台本なわけ?」
洗濯物を広げると、和也に手渡す。和也はそれを、ピンチハンガーにかけていった。
「台本というか。僕が主体になって見ようかなって、思ってるんですけど」
「じゃあ、俺はマグロってこと?」
「そ、そんなことは……」
いじわるで言ってみただけなのに、和也は大げさなほどブンブンと首を振った。普段の冗談だとそこそこ笑って返すのに、こういうジョークはすぐ本気にする。それが少し面白かった。
「和也に俺をイジメられんの?」
「頑張ってはみます」
あんまりヨくなくても演技くらいしてやる、という言葉はさすがに傷つくと思ったので黙っておいた。
「知ってます? SMは、Mのほうに主導権があるんですよ」
「あ、そうなの?」
「はい。Sがやりたいようにやると、犯罪にまで発展しかねないそうです。だから、Mがされたいことしか、やっちゃいけない」
「へぇ?」
直哉の知っているSMとは少し違っていたので、ただ感嘆の声を上げた。入門書でも読んだのだろうか、と感心する。
「あ、それと。セーフワードっていうのがあるみたいなんですけど」
「セーフワード?」
「はい。どうしても限界という時に、M側が言う言葉らしいんですけど。一応、決めておきます?」
「とっさに言われてもな……」
なるべく短い言葉がいいな。それでいて、雰囲気を壊さないような言葉。何がいいだろうかと、少し直哉は考え込んだ。
「そんなに難しく考えなくてもいいんですよ」
「じゃあ……、アイス」
「それは、今食べたいからですか?」
「ちょっとな」
熱で溶かされドロドロになる様なんかは、セックスの心持ちと似てるのではないか。しかしそんなロマンチックな考えを言うのは恥ずかしくて、あえておどけてみせた。
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