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「昔はここで遊んだよなあ、朝から晩まで。子供のときの体力怖えわ。」
「ガキのころは時間が無限にある気がしたからな。」
遊泳禁止のこの海に来て、二人で泳いだり、釣りをしてりして遊んだ。
こんな汚い海にはいっていたなんて、今考えるとゾっとするが、
あの頃はそんなこと気にせず、ただ二人で遊べるのが楽しかった。
「釣りしてなんかよくわからん魚釣ったよな。二人してどうしたら食えるか考えたり。」
「あの魚まずかったよな、波がヤバイときに二人で海入ろうとしてこっぴどく怒られたりな。」
「あれはまじでやばかったわ。ここくるの禁止令でたり。」
「やぶったけどな。」
「当たり前じゃん。」
二人して、子供時代のくだらない思い出話に花を咲かせる。
俺と創二、二人だけの思い出。
この汚い海に似合わない、明るく、楽しい、綺麗な思い出。
冷たい空気に似合わぬ、温かい風が二人の間を通り抜けた気がした。
―――――聞くなら、今しかないと思った。
「創二、高校卒業したらこの町出るんだってな。」
声は震えていなかっただろうか。精一杯の虚勢をはって、俺は創二に尋ねる。
「……ああ。自動車整備の学校に行こうと思ってる。」
創二の白い息とともに、その言葉が放たれる。
俺達が生まれ育った町には大学も専門学校もなく、夢を叶えるためには町から出ていくしかない。
創二はちゃんと将来のことを考えて、この町を出ようとしている。
「お前は?親父さんの稼業継ぐのか。」
「稼業ってほどでもねえよ。でもこのままだとそうなるだろな。」
親父はしがない喫茶店をやっていて、俺もたまに手伝っていた。
親父やお袋は俺がこのまま町にとどまって、喫茶店を継ぐことを期待している。
頭がよくねえ俺に大学は無理だし、やりたいこともない。
それでいいんじゃないか、なんて、俺もこの前までは思っていた。
「俺のお袋からお前のその話聞いた時、びっくりしたわ。お前から聞いたことなかったし。」
お前と一番の親友だと自認していたのに相談されなかったということを、それに俺がどれほどショックを受けたのかということを、お前は気付いているのだろうか。
俺が何も考えず流されるまま、大人になっていこうとしているのをお前は馬鹿にしていたんだろうか。
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