8人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
この世で一番こわい話
街の片隅の小さなシガーバー。常連客二人と一見の客が一人、紫煙と共にゆったりと流れる時間を楽しんでいる。
「ところで、この世で一番怖い怪談って聞いたことあります?」
ふいにマスターの鳥飼が切り出した。
「いきなりですね。どんな話ですか?」
常連の一人、宮森が丁寧に反応する。
「それは、あまりにも恐ろしい話なんです。それを聞いた人は、恐ろしさのあまり、みんな死んでしまう。だから、生きてそれを語る人間はだれ一人としていない……」
「あの、悪いけど、それって割と有名な話だよね。いや、その話そのものじゃなくて、要は“あまりにも恐ろしくて中身を誰も知らない話がこの世にあるという話”がさ。なんだかややこしいけど」
もう一人の常連で、年長の高島がしたり顔をする。
「有名なSF作家も、もうずっと昔にその種の短編を書いてますよね。何だっけな。確かタイトルに動物の名前がついた……」
最近もの忘れの激しくなった宮森が頭をがしがし掻く。
「そうそう、あれは名作だね」
「そうですか……でも、私が聞いた話は、動物は一切関係無かったですけどね」
「本当に聞いたの?誰から?」
最初のコメントを投稿しよう!