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「……おーい。またどっか行っちゃってるね?」
トントンと軽く瞬くんに肩を叩かれた振動で、ハッと我に返った。
「おかしいなぁ。俺の顔はのんちゃんの好みじゃないのかな?一応、この辺じゃ、『美形過ぎるドクター』で通ってるんだけどな」
「何だよそれ、聞いたこともねぇな。どの辺で通ってんだよ」
「『羽浦市イケメンドクターランキング』第1位の俺の魅力が分かんないなんて……困った子猫ちゃんだね」
「だから、どこ調べのランキングなんだよ」
「ちなみに、僅差で2位がお前ん所の若先生で、お前は35位だ」
「微妙に本当っぽい順位付けてんじゃねぇ。しかも、向井総合病院の若先生なんて、まだ医学生じゃねぇかよ」
大袈裟にため息を吐くふりをした後で、にこにこと綺麗な顔で笑いながら冗談を言う瞬くんと、それに呆れた顔で「おいおい」なんて言って笑いながら突っ込んでいる真ちゃんの横で、私の背中には、だらだらと冷たい汗が流れ初めていた。
真ちゃんは瞬くんに話しかけている。だから、こっちを見ていない。
……だから 、私に話しかけているように見える 瞬くんが、今私と目線が合っていない事には気がついていないだろう。
そう。瞬くんの目は、私の姿を捉えていない。
彼の視線は私の真横に……
……たぶん、ふてぶてしく寝っ転がっている、この白猫に向けられているはずだ。
決して "子猫ちゃん" なんて可愛らしい類いのものでは無いけれど、『困った子猫ちゃんだね』と言う言葉は、この白猫込みで言われたに違いなかった。
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