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「あの、それはつまり・・・、我々にその部隊を率いよとおっしゃられるのですか?」
遼太郎は失礼に当たらないよう言葉を選びながら聞いた。傳次郎も遼太郎も軍に属したこともなければ、集団の長をやったこともない。
「部隊というのは例えで言ったまでの話だ。虫退治さえしてくれれば、二人だけでやってもよい。それに武器や道具が必要ならこちらで用意する。その他金や人、必要なものがあればすべてこちらが出す。とは言っても、出せるものには限界はあるが。」
と、大将は遼太郎の不安をつぶそうと言った。しかし、遼太郎は首を振った。
「・・・我々は一介の農民にしかすぎません。虫退治などできるわけがありません。」
二人とも普段は土いじりをしているだけなのだ。刀や槍といった武器の類など触ったこともない。今回は村の危機故に虫に対抗したが、そうでもなければ、虫と戦おうなどと思いもしなかっただろう。
「そうですよ。私など百姓の仕事すら、ろくにできずに怒られているんですよ。」
傳次郎も隣で同意した。
「いやいや、農民であるかどうかは関係ない。それよりも実行できるかが問題だ。お前たちの実力はこれを見れば十分だ。」
大将はゆっくりと首を振って、カブトムシを埋めた地面を足でトントンと叩いた。
そう言われて傳次郎と遼太郎は顔を見合わせる。
「今回は運がよかっただけですよ。」
と、遼太郎は大将に目を戻すと言った。
今回は落とし穴を掘るという作戦が上手くいったが、いつもこの方法が使えるとは限らない。大体、この策は穴を掘る時間が必要だし、地形によっては穴を掘ることすら難しい。それにもし、相手が歩かずに飛んでしまえば意味がない。
「それに、俺たちがいなくなったら、父ちゃんたちも困るだろうし・・・。」
傳次郎はそう言った。次男とはいえまだ小さな弟や妹ばかりの家では、傳次郎も重要な働き手であった。
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