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「心配するな。お前たちがいない間、お前たちの親兄弟のことは私が責任を持とう。だから、家族のことを心配することはないぞ。」
大将としては何としてでもこの二人の力添えが欲しくて、説得を試みる。
「頼まれてくれれば、恩賞はやる。」
その言葉に傳次郎の眉がピクリと動く。小さな畑しか持たない傳次郎の家にとっては魅力的な恩賞だ。
大将は傳次郎の反応を見てこれはいけるかもしれないと思い、畳み掛ける。
「金や銀を手に抱えきれないほどやる。それだけではない。土地も・・・それに綺麗な嫁も探してやる。」
大将の思惑通り、傳次郎は言葉を聞いているうちにやる気がわいてくる。
このまま、農民をつづけたところで、大して儲けられるわけでもない。それどころか、天候や災害で不作になれば飢え死にしかねない。そんな時に財産があればどんなに助かることか。
それにここにいた所でまた巨大な虫が現れるかもしれないし、戦も多い昨今だ。こちらから虫退治に行くことがことさら危険というわけでもあるまい。それならば、この話を飲んだ方が身のためだろう。
「なあ、いい条件じゃないか。」
傳次郎は遼太郎にそっとささやいた。一人でやっても良いが、遼太郎がいた方が心強い。今回だって、遼太郎の手助けがあったからこそうまく言ったのだ。そう思って、傳次郎は遼太郎を説得しようとした。
「だが、危険だぞ。」
遼太郎は顔をしかめて、渋る。遼太郎にとっても恩賞は魅力的に映ったが、それに対する危険を考えると簡単には首を縦には振れない。
「ここにいたって、危険なのは変わらないだろう。カブトムシがまた来るかもしれないし。それに、上手くいけば俺たちも家族も皆、遊んで暮らせるようになるんだ。」
「しかし・・・。」
大将は二人がこそこそ話す様子を見て、これはもう少し押せば行けるかもしれないと思った。そこで、大将はいきなり深く頭を下げた。
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