カブトムシ

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「すまないが、引き受けてくれないか。本来ならば、私の役目なのだが、先程の通り、部下も私も情けない結果だ。しかし、私は領民たちを守らねばならない。だから、恥を承知で二人に頼んでおるのだ。」  傳次郎も遼太郎も急に大の男に頭を下げられて動揺する。 「や、やめてください。なにもそこまでしなくても。」  遼太郎は恐縮して手を振った。 「やります。やりますよ、殿。なあ、そうだろ、遼太郎。こんな機会でもないと俺たち一生ただの農民だ。それに上手くいけば皆を虫の恐怖から救うことができるんだぜ。」  傳次郎が遼太郎に語り掛ける。遼太郎は目上の人間には弱い。こんなふうに大将に頭を下げられてしまえば拒否のしようがない。 「殿、顔をお上げください。そのようなことをなさらなくても私も傳次郎もその頼みお受けしますから。」  遼太郎は大将の顔を覗き込む。 「おお、引き受けてくれるか。」  大将はその言葉を聞いた途端パッと顔を上げた。すっかり明るい顔になっている。  こうして、上手いこと大将にのせられた二人は虫退治に行くこととなった。
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