カブトムシ

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 薄くなった煙の向こうに黒い影が見える。その影は微動だにしない。  大将はうまくいったかと思ってほっとする。しかしそれもつかの間、煙が止み、視界が晴れるとカブトムシはゆっくりと動き出した。カブトムシの外殻に多少傷はついているものの、重大な損傷は受けていないようだ。打たれる前と変わらぬ動きで兵たちに迫ってくる。 「ダメだ!効果がない。」  鉄砲組の一人が叫んで、逃げようとした。それにつられて何人か後ろに下がろうとする。 「まだだ!第二陣前へ!」  しかし、大将はあきらめず、次の指示を出す。それに従い新たに銃を持った兵が前へ出てくる。 「撃て!」  再び号令とともに弾が放たれる。しかし、この弾も硬い殻にはじかれてしまい、カブトムシは止まらない。  そうこうするうちにカブトムシが陣形の最前列へと迫る。大きな角が兵たちに迫ってきたため兵たちは千々乱れて逃げ始める。 「ま、待て!」  大将が兵を押しとどめようとするが、もはや誰も聞く耳を持たない。逃げ出した兵士につられて、後方に立つ兵たちも次々に逃げ出し、陣形は完全に崩れてしまう。 「お前たち、このままでは、村に虫が立ち入ってしまうぞ!」  大将は叫ぶが誰も立ち止まるものはいない。あっという間に大将の前から兵はいなくなり、カブトムシと大将の前にさえぎるものが無くなってしまう。
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