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大将がそんなことを考えながら見ていると、人波を一人逆走する者がいることに気づいた。男が逃げる兵をかき分けながら走っている。
大将はようやく落ち着いた馬を止めて、その人影を目で追う。離れているために顔までは分からないが、甲冑も身に付けず、野良着一つ身に付けて走っていることから兵ではないようだ。村に住む農民の一人だろうか。
彼は右手に長い棒状のものを持っていた。初め、大将は薙刀か大きな槍を持っているのかと思った。しかし、よくよく観察すると踏み鋤だとわかった。
あんなものを持って、何をするのだろうかと大将はいぶかしむ。
その間にも彼は走り続け、ついに踏み鋤一つでカブトムシの前へと躍り出た。
すると驚いたのかカブトムシは動きを止めた。
男はカブトムシから目を離さぬまま、左手を懐に入れる。かと、思うとすぐに左手を出し口元へと持っていく。その手には何か握られているようだが、大将からはよく見えない。そして、今度はカブトムシに向かって左手を突き出し、左右に振る。
しかし、何事も起らない。少なくとも大将のところには何の音も聞こえないし、カブトムシも足を止めたままに見える。
しばらくすると男は動かしていた手を止める。そして、今度は左手を頭の上に持ってきて逆さにして、頭の上で振った。それから手を下すとカブトムシに近付いていく。
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