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初めのうちは男もカブトムシも速度が拮抗していたが、次第に疲れて来たのか、男の動きが遅くなる。しかし、カブトムシの速度は緩むことなく、次第に男とカブトムシとの距離が縮まっていった。
加勢に行くべきだろうかと、大将が考えていると男は隣の畑へと入った。
その畑はまだ何も植えられていないのか、種をまいたばかりなのか、何も植えらていないばかりか、雑草すら生えておらず、黒々とした土がむき出しになっていた。それ自体はおかしな状況ではないのだが、その畑を妙なものにしていたのは木の板だった。縦1尺、横5尺ほどの家の壁にでもしそうな板が畑の途中に一枚だけ横たえられている。
男はその板のところまで、やってくるとその板の上を走りだす。長い板を縦方向に端から端まで踏み外すこともなく走ると持っていた踏み鋤を地面に置いた。そして、両手で今歩いてきた板を掴むと持ち上げて立てた。
その時、巨大なカブトムシが男に追い付き、先程まで板が置いてあった地面にまで迫ってきていた。しかし、男は逃げることなく板を持ったまま突っ立っている。
大将は男がカブトムシに襲われてしまう、そう思ったが、次の瞬間、カブトムシの姿が目の前から消えうせた。
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