待望の草

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待望の草

 道草を食っていた。  文字通り、口の中には苦くて青い味が広がっていた。美味しくはあったと思う。胃袋の中が殴れたように揺らされ、嘔吐を繰り返す。  めまいがする。幻聴がする。幻覚が見える。  アイツだ。アイツのせいだ。  畜生。どうして。こんな。  自宅の前の道の側には、ふきのとうに生えている。  そのふきのとうの天ぷらを食べるのが俺の習慣だった。アク抜きをせず、生のまま小麦粉をまぶし、生地を絡めて揚げてゆく。  ころころと美味しそうな音を立てていた。  ゆったりとした朝の空気の中でインターフォンが夢から覚ますように鳴った。 「へーい、どちらさん?」  大声で叫んでみて玄関に足を運んだ。心当たりが無いわけではないが思考の外に追いやった。 「ねぇ」  閉じたドアの向こうから低い声がした。一言で分かった。  気味の悪い女だ、せっかく追い出したというのに。 「何だってんだ!?」  そう叫んで、ふきのとうの天ぷらを口に含み、喉に通した。皿を置いて、ドアを開ける。  髪の長い気味の悪い女がそこにいた。 「今日もだめ?」 「何……が……?」  そのときだった。めまいがする。幻聴がする。幻覚が見える。そんな気がした。 「あ!ようやく!」  気味の悪い女が嬉しそうな顔をした。 「何を……」  気持ちが悪い。吐き気がする。俺はその場に倒れこんだ。 「ねぇ、ふきのとうの花言葉を知ってる?知らないよね。愛嬌、仲間、そして待望!ようやくだ、随分待った……」  気味の悪い女が何かを言っている。 「君が、道草のふきのとうを食べているのは知っていたよ。ハシリドコロって植物は知ってる?ふきのとうに似ている有毒植物なんだけどね。それを道草のふきのとうに混ぜておいたんだ!」  頭が回り、意識が消えそうだった。  畜生、ふきのとうなんざ、道草なんざ食うんじゃ無かった。  そう思うのを最後に、俺の意識は暗転した。
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