0人が本棚に入れています
本棚に追加
待望の草
道草を食っていた。
文字通り、口の中には苦くて青い味が広がっていた。美味しくはあったと思う。胃袋の中が殴れたように揺らされ、嘔吐を繰り返す。
めまいがする。幻聴がする。幻覚が見える。
アイツだ。アイツのせいだ。
畜生。どうして。こんな。
自宅の前の道の側には、ふきのとうに生えている。
そのふきのとうの天ぷらを食べるのが俺の習慣だった。アク抜きをせず、生のまま小麦粉をまぶし、生地を絡めて揚げてゆく。
ころころと美味しそうな音を立てていた。
ゆったりとした朝の空気の中でインターフォンが夢から覚ますように鳴った。
「へーい、どちらさん?」
大声で叫んでみて玄関に足を運んだ。心当たりが無いわけではないが思考の外に追いやった。
「ねぇ」
閉じたドアの向こうから低い声がした。一言で分かった。
気味の悪い女だ、せっかく追い出したというのに。
「何だってんだ!?」
そう叫んで、ふきのとうの天ぷらを口に含み、喉に通した。皿を置いて、ドアを開ける。
髪の長い気味の悪い女がそこにいた。
「今日もだめ?」
「何……が……?」
そのときだった。めまいがする。幻聴がする。幻覚が見える。そんな気がした。
「あ!ようやく!」
気味の悪い女が嬉しそうな顔をした。
「何を……」
気持ちが悪い。吐き気がする。俺はその場に倒れこんだ。
「ねぇ、ふきのとうの花言葉を知ってる?知らないよね。愛嬌、仲間、そして待望!ようやくだ、随分待った……」
気味の悪い女が何かを言っている。
「君が、道草のふきのとうを食べているのは知っていたよ。ハシリドコロって植物は知ってる?ふきのとうに似ている有毒植物なんだけどね。それを道草のふきのとうに混ぜておいたんだ!」
頭が回り、意識が消えそうだった。
畜生、ふきのとうなんざ、道草なんざ食うんじゃ無かった。
そう思うのを最後に、俺の意識は暗転した。
最初のコメントを投稿しよう!