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とし兄ちゃんの家は建物の階段を上った先にありました。いくつも同じようなドアが並んでいます。
「このドア、全部とし兄ちゃんのおうちなの?」
さっきお母さんが持っていた大きなバッグは、今はとし兄ちゃんが持っています。
「まさか! 俺んちはこの奥の1つだけだよ」
そして玄関先で、お母さんは、「じゃあ、また迎えに来るからね」と言いました。
「めぐちゃん、いい子にしててね。ママが迎えに来るまで」
「分かった、ママ!」
「帰り大丈夫?」
「平気、タクシーを拾うから」
「そう……じゃ、気を付けて」
「――そうね」
でも、ママはその日迎えに来ませんでした。
夏の、日が長くていつまでも明るい時期でした。
めぐちゃんは日が暮れるまで玄関先でお母さんを待っていたのに。とし兄ちゃんが声をかけても玄関から離れませんでした。そうして日が暮れた頃にはお腹がぺこぺこになってしまいました。
めぐちゃんは「ご飯を食べよう」と言うとし兄ちゃんに連れられ、いい匂いに誘われるように玄関から中へよたよた歩いて行きました。
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