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雪かぼくのベンチ
ぼくらにはベンチがあった。
いつしかぼくが「ぼくらのベンチ」と呼び、雪が「わたしたちのベンチ」と呼ぶ、青いベンチがあった。
雪はベンチに座って本を読むのが好きで、ぼくもベンチで過ごすことが気に入っていた。それが偶然同じベンチだったので、ぼくらは出会った。
はじめはもちろん隣には座らなかった。
雪が先にいて本を読んでいるとき、ぼくはがっかりして隣のベンチに腰を下ろした。
ぼくが先に来てメロンパンを食べているとき、雪は寂しそうに隣のベンチで足をぶらぶらさせていた。そういう日常が一ヶ月くらいあった。
あるとき、ベンチでぼーっと雲を眺めていると、声をかけられた。
「隣、いいですか」
雪だった。名前は知らないけれど顔は憶えていたので、ぼくは反応がずいぶん遅れた。結果として、見つめ合うかたちになった。
「ど、うぞ」
なんとか肺に残っていた空気を絞り出す。ベンチの真ん中に座っていたので、腰を上げて右端に移動する。とはいえ大人が二人座れば満席になる狭いベンチだ。
ぺこり。と雪がお辞儀をして、腰掛ける。動作が大げさにならないように、隣のベンチに目を遣った。なるほどカップルが占領していた。
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